君の信頼が力をくれる


親愛なる君へ

君の初めてのアルバイトは何でしたか？。
高校時代、僕は私立の進学校でアルバイトは禁止でした。
だから僕の最初のアルバイトは大学１年生の時でした。
夏休みだけの家庭教師のアルバイト。
相手は高校３年生、直子ちゃんという女の子でした。
正直に言うと、同世代の女の子の部屋に入ったのはこの時が初めてでした。
中学高校と６年間一貫教育の男子校にいた僕は、それまで女の子の部屋に入ったことがなかったのです。
６年間の禁欲生活を強いられて来た19歳です。
当時の僕の頭の中は女の子のことでいっぱいです。
しかも夏休み、当然彼女も薄着です。いつもＴシャツ１枚に短パンというラフな格好でした。
おまけに家庭教師をしている時間中、彼女の家には他の家族がいないことも何度もありました。
でも僕は彼女に手は出しませんでした。
なぜでしょう？？
勇気がなかったというのも多少はありました。
けど、それが本当の理由ではありません。
彼女に魅力がなかったわけでもありません。
直子ちゃんは可愛い子でした。スタイルも充分いい子でした。
ではなぜ僕は彼女に手を出さなかったのか？
その理由は、彼女が僕を本当に信頼してくれていたからです。
いま考えると決してうまい教え方では無かったと思います。
それでも会って間もない僕の言うことを全面的に信頼して、僕の指導に従ってくれました。
その彼女の信頼に応えたいという気持ちがとても大きかったのです。
当時ワープロもまともに打てなかった僕は、テキストの多くを手書きで作って行きました。
市販のテキストは、１月ちょっとの短期間で成果をあげるようには作られていません。
最小の時間で最大限の成果があがるように、要点だけに絞って資料を作るのが、僕の日課になっていました。
週に２回、時間にすると４時間のために、資料の作成と教え方を考えるのにその倍を超える時間を費やしました。
人から信頼されるということは、それだけの力を与えてくれるのです。
これは仕事にも言えることです。
部下に仕事をさせようと思ったら、叱咤するより「お前にまかせた。信頼しているぞ。」という姿勢をみせることです。
それだけで部下は普段の何倍もの力を発揮します。

誰でも人に信頼されたいという欲求を持っています。
誰もが渇望しているということは、それだけ「信頼される」ということは難しいことなのです。
でも彼女は僕に信頼される喜びを教えてくれました。
僕は彼女に受験のための勉強を教えていたけれど、本当は彼女の方が先生だったのですね。

P.S.
直子ちゃんはそれからも季節の変わり目にはいつも手紙をくれました。
必ず書かれていた「先生」という言葉が照れくさかったです。
こちらこそ、ありがとう。直子先生。